2026年5月号 わたしの勉学時代 南山大学 学長 ロバート・キサラ先生に聞く

南山大学はカトリックの修道会である神言会を設立母体に1949年に開学。中部地区を含む西日本唯一のカトリック総合大学です。ロバート・キサラ先生は学長就任後も教壇に立ち、メールマガジンを配信するなど交流を大切にされています。「キリスト教世界観に基づく学校教育を行う」を建学の理念とし、「人間の尊厳のために」という教育モットーのもと、社会貢献活動をカリキュラムに組み込む教育プログラム構想を進めています。


【ロバート・キサラ(KISALA, Robert)】
1957年生まれ。アメリカ合衆国(シカゴ市)出身。
神学修士(Catholic Theological Union)/文学博士(東京大学)。
78年Divine Word College数学科卒業。85年Catholic Theological Union大学院神学研究科修了。司祭叙階。87年南山大学外国人留学生別科修了。91年東京大学大学院人文科学研究科修士課程宗教学・宗教史学専攻修了、94年同博士課程宗教学・宗教史学専攻修了。95年より南山大学で教鞭を執り、文学部(現 人文学部)助教授、人文学部教授を経て、2020年学長就任。神言修道会日本管区長、総顧問、副総会長などカトリックの各種要職を歴任。専門は宗教学、宗教社会学。

父の背中を見て勉強好きに

 私が生まれたシカゴは、アメリカ・イリノイ州最大の都市です。冬はとても寒くて雪がたくさん降ります。子どもの頃は、近所の公園のスケートリンクで毎日のようにスケート遊びをしました。大雪で学校が休みになると、1歳上の兄と1歳下の弟、近所の子どもたちと雪遊びです。冬以外の季節は野球。外で遊ぶのが大好きでしたね。
 切手集めは子どもの頃からの趣味で、アポロ11号による人類初の月面着陸をテレビで見て感動し、宇宙に関連した切手をたくさん集めました。外国に興味を持つようになってからはいろいろな国の切手を収集。もちろん日本の切手も集めましたよ。
 私の父はポーランドで生まれ、戦後に難民としてアメリカに来ました。戦時中は学校に行けなかったので、アメリカで仕事をしながら夜間大学へ。私が4〜5歳の頃、父の大学の卒業式に出席した記憶があります。そういう父を見ていたからか、私たち兄弟は教育の大切さを身近に感じながら育ったように思います。私は本を読むのが大好きで、学校の勉強では数学や科学、歴史が好きでした。母はアメリカ生まれです。父から教えてもらったポーランド料理のポテトパンケーキをよく作ってくれました。とても懐かしい思い出です。

高校時代は神父を志す

 両親は熱心なカトリック信者です。1日はお祈りで始まり、私たち兄弟は教会が運営する小学校に通い、日曜日は教会に行きました。神父になりたいと考えていた私は、高校は神学校に進学。アメリカには日本のような高校受験は基本的にないので、受験はしていません。ウィスコンシン州にある小さな神学校で寮生活を送り、同じく神父を志す学生たちと学びながら、休日にはテニスや野球、スケートなどをしました。
 大学も神学校に進みました。特におもしろかった授業はラテン語です。英語はラテン語やフランス語など様々な言語の影響を受けていますが、文法は英語とラテン語ではまったく異なります。一生懸命勉強して、ラテン語で書かれた書物を理解できるようになっていくのが楽しかったです。
 大学院でも神学を専攻しました。修士号を取得したいという思いがあり、神学ではなく宗教社会学的な研究でアプローチすることに。しかし大学院にはそのようなカリキュラムはなく困っていたら、1人の先生が私の希望に応えて、私のためだけに授業をしてくださいました。尊敬する先生が1対1で授業をしてくださったことが、今も強く心に残っています。

▲高校生の時、友人たちと撮った1枚です(前列右がキサラ先生)。

留学を機に日本好きに

 最初に日本に来たのは、大学を卒業して間もない21歳の時。この頃は、ロサンゼルスで高校の教員になるつもりでした。そんな時、名古屋市にある南山中学校で英会話を教えることになった同級生2人に誘われ、一緒に日本に来ることに――。日本に関する知識はほとんどなく、言葉も話せません。50年近く前ですから、街を歩くと子どもたちが「ガイジン、ガイジン」と……(笑)。外国人はまだまだ珍しかった時代です。
 南山中学校で英語教員として働きながら、週3日、南山大学の留学生別科で日本語を2年間学びました。その後アメリカに帰ったのですが、日本への思いが募り、再び来日。友人もいましたし、おいしい魚を食べられる誘惑も大きかったので(笑)。東京大学大学院に入り、宗教史学を専攻しました。授業は日本語ですから最初は半分くらいしか理解できませんでしたが、次第に慣れ、卒業論文は日本語で書きました。

▲日本で好きなものは、手羽先と銭湯。名古屋にお気に入りの手羽先の店があったのですが、残念ながら閉店してしまいました。

第二の故郷、名古屋で教員に

 東京での生活は便利でおもしろかったけれど、私にとって最初に暮らした名古屋は故郷のようなもの。それで、東京大学大学院卒業後に再び名古屋に戻って来ました。南山大学の研究機関のひとつである宗教文化研究所に勤務し、大学では宗教学を担当。この時には日本語でコミュニケーションがとれていましたが、授業をするとなると大変です。まず、黒板に書く内容を頭の中でイメージし、漢字の練習もしました。準備にかなりの時間を費やしましたね。私も苦労しましたが、私の字を読む学生も苦労したんじゃないかな(笑)。
 教える立場として、卒業論文などを通してゼミ生たちの成長を感じられることは大きな喜びです。数年前に提出された「推し活の宗教性」というテーマの卒業論文は、興味をそそられる内容でおもしろかったですよ。
 学長に就任したのは、新型コロナウイルスのパンデミックが始まった2020年です。オンライン授業になったことで学内から学生の姿が消え……。し~んと静まりかえった大学は本当に寂しかったですね。ポスト・コロナの今、本学の使命として「3Ds」を掲げました。3つのDとはDignity(人間の尊厳の推進)、Diversity(多様性の重視)、Dialogue(対話の実践)です。終戦直後に外国語専門学校としてスタートした南山大学には、多様性を重んじる土台があります。違う経験や価値観を持つ人が互いの尊厳を守りながら、対話を通して一緒に真実を探求していく。それが大学の意義だと思います。これからは学問的な境界を越えて課題に取り組んでいく必要もあるでしょう。
 新たなサービス・ラーニングの導入も予定しています。課外活動として行っているボランティアをきちんとカリキュラムに組み込んだ教育プログラムで、社会貢献の意味や心構え、活動の仕方、活動後の振り返りなどを体系的に学習できるようにしたいと考えています。そうした社会貢献こそが、人間の尊厳、つまり人間としてのかけがえのない価値や権利を尊重するための実践教育であると思います。

▲シカゴは内陸に位置しているため魚をあまり食べません。それに高価です。日本ではおいしい魚を毎日のように食べられるので嬉しいですね。

恩師2人が道を開いてくれた

 アメリカと日本の教育は、それぞれ特徴があります。アメリカは自由な雰囲気の中で学生が積極的に授業に参加する、いわゆるアクティブラーニングが普通です。もちろん良い面はありますが、学生が自分の意見を伝えるだけになってしまう危険も含んでいます。一方、日本の教育は、基礎がよくできていて全員が共通理解を持ちやすい面があるものの、もう少し創造性を育む必要があるようにも思います。
 私は子どもの頃、人見知りで引っ込み思案でした。やりたいことがあっても「どうせ私には無理だ」と最初から諦めてしまう子どもでした。そんな私を励まし、好奇心や勇気を持つ大切さを教えてくれたのは、小学校と高校でお世話になった2人の先生です。小学校の時の先生の勧めにより、私は新聞を読むようになりました。高校の時の先生は、一歩を踏み出す勇気を持てないでいた私の背中を優しく押してくれました。
 最後に、私が皆さんに伝えたいメッセージは2つです。ひとつは、いろいろなことに好奇心を持つこと、もうひとつは自分を過小評価しないことです。自信がないことでも思い切って挑戦すればいろいろな発見がありますし、自分の世界が大きく広がりますよ。

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