関塾タイムス5月号 特集 数学は本当に役に立つの? ―この仕事にこの数学

関塾タイムス5月号 特集 数学は本当に役に立つの? ―この仕事にこの数学

数学が苦手な人の中には「将来、役に立ちそうにない公式や定理をなぜ勉強しないといけないの?」と思う人もいるでしょう。
確かに、日常生活の中で公式や定理を使うことは少ないかもしれません。
しかし、中学や高校で習う基本的な数学の知識は、様々な専門職で活かされています。
例えば、建築の世界では図形や比率を用いて設計し、スポーツの世界では選手のパフォーマンス向上やチームの勝利のためにデータを収集し分析する、といったように。
どんな職業でどんな数学が使われているのか、身近なものを紹介します。

□ものを作る仕事

●動画クリエイター 【使う領域:比例・反比例
 動画クリエイターが動画を作成する時に使う値に「fps(Frames Per Second)」があります。Secondとは秒のこと。fpsはフレームレートとも言い、1秒間の動画を構成する画像(フレーム)の枚数を示します。動画は、何枚もの静止画を連続して速く送ることで動いているように見せる仕組み。パラパラマンガをイメージするとわかりやすいですね。
 1秒間の静止画数が多いほど動きがなめらかに見えますが、一方で、静止画の枚数が多ければ多いほど、データの容量は大きくなります。容量に上限がある場合や撮りたい動画の時間が決まっている場合、fpsの値をどうするべきかは、「比例」や「反比例」の式を立てて求めることができます。

●ゲームクリエイター 【使う領域:ベクトル、三角関数、行列 など】
 ゲームクリエイターが使うのは、「ベクトル」「三角関数」「行列」などです。これらは高校で教わりますが、その基本となる知識は中学校で学習します。
 例えばベクトルは、平面上や立体上での位置や移動を考える分野。難しそうに思えますが、平面の画面上で右に「4」、上に「5」動くことを座標(4,5)と表すことを「座標」「1次関数」「2次関数」「図形の性質」などで学びます。
 また、ゲームの中で投げた物が10秒後にどの位置にあるか、壁に当たるとどの位置にはね返るかといったことは、高校の物理の考え方が必要に。物理を学ぶ上でもベクトルの知識が基本になります。
 三角関数は、角度と距離の関係について学ぶ分野。ゲームでは、敵のキャラクターから認識される視界の広さを扇形にしたり、キャラクターにエフェクト(効果や演出)をつける時に円形にしたりと、円形の動きを考える時に活用できます。三角関数も高校で学ぶ分野ですが、その基本は中学校で学びます(「円周」「比」「三平方の定理」など)。

□スポーツの仕事

●スポーツアナリスト【使う領域:1次方程式、2次関数、割合、図形 など】
 スポーツの世界で数学をよく使うのは、競技に関する情報を収集し、整理・分析するスポーツアナリストです。データ分析や専門知識を活かして選手のより良いパフォーマンスを引き出したり、作戦を立ててチームを勝利に導くサポートをしたりします。
 近年のテクノロジーの進歩によって、野球、サッカー、バスケットボール、テニス……と、あらゆるスポーツでデータの測定・収集が可能になりました。例えば、選手がGPS(Global Positioning System:衛星測位システム)デバイスを身につけることで、練習中や試合中の走る速度やフィールド内の移動距離など、すべての動きを記録することができます。
 また、スポーツアナリストは試合や練習の映像からパスの軌道を可視化、シュート数とゴール数から成功率を計算……と、様々なデータを収集し、そのデータを使って選手やチームの状態を細かく分析します。分析する内容は、
◦サッカー シュート角度の算出、最適な移動速度や走行距離
◦バレーボール サーブの成功率や効果的なコース
◦バスケットボール シュートを成功させるための軌道や速度
など多岐にわたります。
 スポーツアナリストは、選手の動きを分析して各選手のフォームや身体状態を把握し、ケガをしにくい練習メニューを考えることも。さらに、相手チームの弱点を分析して戦術を考えたり、それに伴う選手の起用を監督やコーチに伝えたりもします。
 分析に使う数学は、「1次方程式」「連立方程式」「2次関数」「割合」「図形」など様々。身体やボールなど動くものの分析には、空間を把握するための「空間図形」の知識や、重力や速度によるボールの動きを把握する「2次関数」などが必要です。
 スポーツアナリストは当然、スポーツに関する専門知識が必要ですが、それと同時に、データを客観的に捉えて数学的な仮定を立て、分析・検証する能力もないといけません。データ分析は専用ソフトを使って行うことが多いですが、仮説を立てて分析の方向性を考えるには、数学的な知識を持っておく必要があります。

□美容の仕事

●美容師 【使う領域:割合、濃度 など】
 美容師になるためには、国家試験に受かって美容師免許を取る必要があります。美容師免許の取得には、筆記試験と実技試験の2つの試験に合格しなければなりません。筆記試験では、衛生面や安全面の知識、制度、美容文化・技術など様々な問題が出され、その中には化学に関するものもあります。また、ヘアカラーやパーマ、衛生対策で多種類の薬剤を使用することから、混ぜる割合に関する知識も求められます。
 下に示したのは、過去の筆記試験の問題です。

(出典: 公益財団法人 理容師美容師試験研修センター 第51回美容師筆記試験 https://www.rbc.or.jp/exam/past_question/)

 実際の現場では、カラー剤やパーマ液を「1:2」や「3:4」で混ぜるなど、顧客の要望や髪質に合わせて対応しなければなりません。パーマのウェーブをきれいに作るには、髪の長さに合わせて巻きつけるパーマロッドの太さを調整する必要が。1周に巻きつけられる髪の長さは「直径×円周率」で計算できることは小学校で習いました。毎回計算はしていなくても、長さと巻き数の関係を感じながらパーマロッドを選んでいます。

□建築の仕事

●インテリアコーディネーター【使う領域:比、割合】
 インテリアコーディネーターは、顧客の要望に応じて、壁紙や床材、カーテン、家具、照明などを提案する仕事です。提案の際は、図面を描いたり模型を作ったりして、イメージをより伝えやすくすることもあります。実物の大きさでは作れないので、1/30や1/50といった縮尺サイズで作ります。この時に使われるのが「比」や「割合」です。
 部屋のいろいろな場所の長さや広さ、高さを測り、縮尺したパーツを作って組み立てると、実際の部屋そっくりのミニチュア版ができます。それを使って完成した部屋に合うインテリアを提案するには、実際の大きさをイメージできる数値の感覚が必要です。例えば、図面上で8㎝のソファが実際には何㎝になるかというと――? 1/30の縮図であれば、8×30=240(240㎝)ですね。縮図の1㎝は実際は30㎝ですから、図面上では少しの差でも現物では大きな差になります。拡大図と縮図は小学校で習いますが、中学校で習う図形の移動や空間図形を様々な方法で表現する見取り図や展開図、投影図も、空間を扱う職業では役に立つ知識だといえます。

●建築士【使う領域:構造計算】
 建築士の業務には、設計の他、工事監理、構造計算などがあります。家やビルを建てるには、日本では建築基準法に基づいて設計する必要があり、その際に欠かせないのが構造計算です。構造計算とは、建物にかかる重力や、地震、風、雪などの自然災害に対して、柱や梁などの部材が耐えられ、安全性を保てるかどうかを数値的に検証する計算のことです。
 構造計算の1つに荷重の計算があります。例えば床は、床自体の重さと家具などの床に載せるものの重さ、人の重さに耐えられるだけの強度が必要です。その床自体の重さも計算で求めなければなりません。厚さ0.1m、幅1m、長さ1mのコンクリート床の重さの場合、0.1(m)×1(m)×1(m)×24(kN/㎥:コンクリートの比重)=2.4kNとなります。Nはニュートンと読み、力の大きさを表す単位で、高校の物理で学びます。
 建築には物理学の考え方が、物理の基礎には数学の知識が必要で、建築と数学は密接な関係がある分野です。

□開発の仕事

●商品開発【使う領域:統計】
 新商品を開発するには、商品が売れるかどうかを考えることが大事です。それを調べるために、開発しようとしている品がどれくらいの人に求められているのか、ターゲットとなる人の数などを分析し、予測する必要があります。その時に使うのが「統計」です。統計とは、データから平均値や中央値を出したり、図や表にまとめて全体の特徴を捉えたりすること。統計の基本は小学校や中学校で学びます。
 統計を使うと様々なことがわかります。例えば、スーパーに並ぶ商品の関係を調べることができます。米、肉、魚、野菜、パン、牛乳、洗剤などの商品について、どの商品が一緒に買われることが多いかを調べると、パン+肉+牛乳の組み合わせ、米+魚の組み合わせが同じタイミングで買われているなど、消費傾向が似たものを見つけられます。こうした関係を「相関関係」といい、相関関係を表す数値が大きければ関係が強く、小さければ関係が弱いことに。これをもとに、仕入れの量を調整したり、商品の並べ方を工夫したりできます。

 これらは、商品が売れた時点の日時と店、値段、数、顧客などのデータをリアルタイムで収集し、在庫や売り上げの管理に活用する「POSシステム」によって分析されます。 
 POSシステムで集めた多くのデータを、ビッグデータといいます。新商品を開発する時には、ビッグデータを使ってマーケティング(市場調査、開発、販売、宣伝)を行います。ビッグデータにはPOSシステムのデータの他、ネットの検索結果やSNS、GPSデータなどがあります。検索エンジンでの検索履歴やSNSのデータもマーケティングにとって重要な情報です。SNSの投稿文から、話題の移り変わりや今、何が流行っているのか、開発したい商品が注目されるかどうかを分析できます。
 統計を使った分析の方法はたくさんあります。どんなキーワードで分析するか、どの方法を用いて分析するかでマーケティングの効果は大きく変わるので、数学的な分析の知識を身につけておくことが大切です。

□販売の仕事

●雑貨店など【使う領域:百分率、方程式
 商品を仕入れて店で売る仕事では、価格設定で数学を使います。販売価格と利益をそれぞれいくらにするかは、数学を使って考えます。
 販売価格=原価÷(1−利益率)
 販売価格はこの方程式で計算できます。しかし、実際に店で商品を売ることを考えると、原価は商品の仕入れ代だけでなく、送料や包装代、ラベル代なども含めて計算しなければなりません。販売員を雇うなら人件費を考慮する必要もあります。
 利益率をどうするかも重要です。利益は多い方がいいですが、あまり高くすると売れない可能性が出てきます。同じような商品を扱っている店の販売価格や業界の利益率を調べ、客に購入してもらえて利益が出る価格にします。上に示した方程式の原価や利益率を変更しながら、店に合った販売価格を導き出しましょう。
 店舗に関わるお金の計算も忘れてはいけません。家賃や宣伝費、通信費などにかかる金額も頭に入れ、長く経営できる方法を考えます。

●カフェなど【使う領域:1次関数、連立方程式 など】
 カフェのような飲食店の経営や、材料を使って自分で物を作って売る場合にも、価格設定には数学を使います。また、原材料を無駄なく商品に変えたい、売り上げが見込める商品を効率よく製作したい――こんな場合は計算式を使うと有効です。
 例えばハンドメイド作家の次のようなケース。1枚の布地から作れるポーチの数は少ないが高い値段で売れる、一方、ブローチはたくさん作れるが値段は安いという場合、1枚の布地からポーチを何個、ブローチを何個作れば効果的に売り上げが上がるかは、数式を用いて求めることができます。同じように、ケーキが人気のカフェで、どのケーキをいくつ作ると効率がいいかといったことも、値段や1日に作れるケーキの数、売れ筋など、いくつかの条件を式に表して連立方程式にしたり、グラフに表したりすることで最適解が導き出せます。
 このような考え方を「線形計画法」といいます。線形計画法には「1次関数」「最大値」「最小値」「連立方程式」が必要です。店を長く続けるには、数学の知識を使って材料や製作時間の効率的な使い方を考えたり、利益を出すためにしっかり計算したりすることが重要です。

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