関塾が発行する親子で楽しむ教育情報誌、関塾タイムス

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2019年6月号 特集①

「子ども科学電話相談」で人気の“美絵ちゃん先生”に会ってきました

永田美絵先生
コスモプラネタリウム渋谷・チーフ解説員。かに座。
東京都品川区生まれ、神奈川県川崎市育ち。中・高校生時代から「天文関係の仕事をしたい!」と周囲に宣言し、大学では天文部の先輩からプラネタリウムのアルバイトを紹介してもらったそう。卒業後は天文博物館五島プラネタリウムに就職。現在はコスモプラネタリウム渋谷で日々宇宙の物語を届けています。NHKラジオ 第1「子ども科学電話相談」では天文・宇宙を担当。そのやわらかな声と、宇宙と子どもへの愛に溢れた回答は、大人からも大好評。SNSでは“美絵ちゃん先生”と呼ばれ親しまれています。
☆「子ども科学電話相談」は、2019年4月より毎週日曜日午前10時5分スタートのレギュラー放送となりました!

――誰もが癒されるやわらかな声で、星のこと、宇宙のことを楽しく教えてくれる永田先生。先生の話を聞いていると、本当に宇宙が大好きであることが伝わります。まずは先生ご自身のことについて伺いました。

アイドルは土星なんです♪

 関塾生の皆さん、こんにちは。コスモプラネタリウム渋谷で星空解説をしている、永田美絵です。
 皆さんには、大好きなもの、夢中になっていることがありますか?
 私が大好きなものは空、そして宇宙です。幼稚園の頃には、すでに空を見上げていました。夜の星空はもちろん、昼間に空を流れていく雲も飽きずに眺めていたものです。
 子どもの頃、とりわけ印象に残っている出来事が二つあります。一つは、小学生の頃に見た皆既月食です。弟の友達が望遠鏡を持っていたので、3人で月をのぞきました。そうしたら、望遠鏡の中で月がどんどん動いて、やがてフレームからはずれていったんです。これって、地球が自転しているからですよね。「地球って本当に動いているんだ!」と感動したのをよく覚えています。
 もう一つは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した無人惑星探査機「ボイジャー1号」と「ボイジャー2号」が届けてくれた、美しく壮大な惑星の姿です。たしか中学生の頃だったと思います。私は土星が大好きなのですが、それをボイジャー号がたくさん撮影してくれました。それが本当にすばらしくて!
 それまでも、地球の大きな望遠鏡で撮影した土星を見てきました。しかし、ボイジャー号が土星に限りなく近づいてとらえた姿は、今までとは比べものにならないほど鮮明で、大感激でしたね。それから、当時、天文学者のカール・セーガンという人が監修した「コスモス(COSMOS)」というテレビドキュメンタリーが放送されていました。この番組が大好きで、一生懸命見ていたのですよ。番組に登場した惑星をまとめた写真集も出版されたのですが、これがなかなか高価で、中学生のお小遣いでは全巻そろえられなかったです。仕方がないので、土星がたくさん載っている巻だけ買いました。本当は、4巻そろえるともらえるポスターが欲しくてたまらなかったんですけどね(笑)。代わりに、土星の写真を切り抜いて、下敷きに挟んで持ち歩いていました。周りの友達は好きなアイドルや歌手の写真を挟むんですよね。でも私は土星でした。私のアイドルは、昔も今も土星です!

*地球が太陽と月の間に入り、地球の影で月がすべて隠される現象。

皆既月食中の月は、赤黒い「赤銅色」になります。

プラネタリウムで働きたい!

 宇宙への興味が尽きない私は、もちろんプラネタリウムも大好きでした。子どもの頃に通ったのは「川崎市青少年科学館(現・かわさき宙と緑の科学館)」です。自宅から近かったので、よく父に連れられ弟と一緒に行きました。いつも、枡形山の公園で遊んでいると、プラネタリウムの上演時間を知らせる放送が聞こえて、科学館へ行くという感じでした。私が生まれた東京都品川区、子ども時代を過ごした川崎市では、あまり星がよく見えません。満天の星を初めて見たのが、この川崎市青少年科学館のプラネタリムだったんです。
 中学生か高校生の頃だったでしょうか。将来、プラネタリウムで働きたいなと思いました。そこで、川崎市青少年科学館の解説員の方に、「どうしたら、プラネタリムの解説員になれますか?」と聞いたんです。その時に対応してくださったのが、たしか若宮崇令さん(現・八ヶ岳総合博物館館長)だったと思います。若宮さんは「大学では理系の学部を選ぶといいよ」など、丁寧にアドバイスしてくださいました。かわさき宙と緑の科学館は本当に大好きな場所で、今も暇を見つけては訪れています。
 私はこれまで、自分の夢や目標を、堂々と言葉にしてきました。中・高校生の頃から「天文関係の仕事をしたい!」と公言していたのですよ。東京理科大学では天文部に所属。そこでももちろん、「天文関係の仕事がしたい! プラネタリウムの解説員になりたい!」と周りに言っていました。すると、ある日、大学の卒業生で、天文部の先輩がやって来て、私に「プラネタリウムでアルバイトしないか?」と誘ってくださったんです。先輩は、「天文部にプラネタリウムで働きたがっている学生がいる」という話を聞いて、誘いに来てくださったのでした。それで、大学1年生から4年間、東急百貨店まちだ店(当時)の屋上にあったプラネタリウム「東急まちだスターホール」でアルバイトすることになったんです。ここでの経験が、プラネタリウムの解説員への希望をさらに強くしました。「卒業したらプラネタリウムに就職したい!」と言う私に、またしても幸運が訪れます。天文博物館五島プラネタリウムの方から「ちょうど一人、欠員が出たんだけど、受けてみない?」と声をかけていただいたんです。念願のプラネタリムへの就職。本当にラッキーだったと思います。
 夢や目標、思いを声に出して、周りに知ってもらうことって大事だと思うんです。恥ずかしがっているのはもったいないですよ。「自分には向いていない」「実現できるわけない」と思う前に、まずは声に出してみてください。言葉にすることで、自分自身の意思を再確認できます。そして、周りの人の助けによって、思いがけず道がひらけるかもしれません。

――「宇宙のことを知れば知るほど、地球のすばらしさを実感することができます。それを皆さんに伝えていくことが私のミッションです」という永田先生。そんな先生に、星空の楽しみ方、プラネタリウムの魅力を教えていただきましょう。星空観察には向かないと思われる都会の空にも、ちゃんと星は輝いているのですよ。今晩さっそく、空を見上げてみましょう♪

都会でも星と出合えますよ♪

 皆さんは最近、空を見上げましたか?スマートフォンやゲームに夢中で、下ばかり向いていませんか?少しの間でいいので、それらを置いて、空を見上げてみましょう。そこには、遥か昔から輝き続けている星々があります。皆さんがよく知っている12 星座も、数千年前の人々が考え出したものです。つまり、私たちが星を見上げた時、数千年前の人々と同じ風景を見ていることになります。それって、とってもすてきなことだと思いませんか?
 街中に住んでいても、星を楽しむことができます。「都会には星がない」のではなく、私たちの目が明かりに慣れていて、見えていないだけです。星はちゃんとそこに輝いています。双眼鏡や望遠鏡がなくても大丈夫です。
 では、どうすれば星が見えるか、お教えしましょう。まずは、テレビを消して、ベランダや庭に出てみてください。おうちの方と一緒に、月を眺めて話しながら待つと楽しいですよ。そうやってしばらく夜空に目を慣らしましょう。カーテンを閉めて、部屋の明かりが漏れないようにすることも忘れずに。10分ほどすると、だんだんと星が見えてきますよ。
 子どもの頃の私は、夕焼け空を眺めて、やがて輝く一番星(金星)を見つけるのが大好きでした。太陽は毎日欠かさず西の空に沈んでいきますが、それを気に留める人はあまりいません。でも、その様子をじっくり見ると、とっても感動しますよ。私たちコスモプラネタリウム渋谷の解説員たちは、みんな夕陽が大好きです。事務所から夕陽が見えたら、声をかけ合って窓のそばに集合するほどです。皆さんも、おうちの方を誘って、西の空が見える場所を見つけに行ってみてくださいね。一度でいいので、どんどん表情が変わっていく夕焼け空を体験してほしいです。
 天体に興味を持ち、「星をもっと見てみたい!」と思った皆さんにおすすめなのが、惑星の観察です。今年は6月頃から木星が、さらに7月になると木星と土星が宵空に現れてきます。ちょうど夏休みの頃、空に並ぶ木星と土星を見ることができるでしょう。楽しみですね。
 惑星は比較的観察しやすい天体です。市販の小型望遠鏡であっても、十分に観察することができるでしょう。近くに天文台やプラネタリウムがあれば、天体観望会を定期的に開催しているので、ぜひ参加してみましょう。土星の環が見えるはずですよ!

プラネタリウムの魅力

 満天の星が見たいなら、プラネタリウムに足を運んでください。私はいつも、プラネタリウムに来ていただいたお客さんと、満天の星を楽しみます。皆さんに目を閉じていただき、数をかぞえ、再び目を開けると飛び込んでくる無数の星々。あちらこちらから「おおー」という感嘆の声が上がります。その瞬間がとても好きです。幸せだなと感じます。
 プラネタリウムの投影機は、極めて本物に近い星を映し出します。星の瞬きまで再現できるのですよ。アップで見ても感動します。家に双眼鏡があるという人は、ぜひ持って来てくださいね。プラネタリウムで見る星は、偽物ではありますが、私たちに確かな癒しと感動を与えてくれます。夏でも冬でも、雨が降ろうが雪が降ろうが、いつでも星と出合えるプラネタリウム。星空観察の前に、プラネタリウムでどのような星があるのか確かめておくのもおすすめですよ。

地球ってすばらしいんです

 私が子どもの頃、ボイジャー号は美しい惑星の姿をたくさん届けてくれました。宇宙のことがどんどんわかるようになって、わくわくしっぱなしでした。でも、現在のほうがもっと、宇宙にわくわくできるのではないでしょうか。今はまさに「天文大航海時代」だと私は思っています。ここ10年の間に、信じられないような、いろいろな発見が相次ぎましたね。例えば、太陽系外の惑星が見つかったり、重力波を突き止めたり。日本からも「はやぶさ」が宇宙を旅して、小惑星「イトカワ」や「リュウグウ」のサンプルを持ち帰るという、大変重要なミッションを行っていますね。地球誕生の謎に、いよいよ迫ろうとしています。天文はこれからが旬の学問です。皆さんにもぜひ、天文学の面白さにふれてもらえたらと思います。
 宇宙を知ることは、地球のすばらしさを再認識することにもつながります。私たちが生きている地球は、いろいろな奇跡が重なって誕生し、存在しています。私たちはふだん、地球を当たり前にあるものとしてとらえていますが、まったくそうではないんですよ。だって、探査機がどれだけ遠くへ進んで行っても、どんなに高性能な望遠鏡で観察しても、いまだに地球と同じ星は見つかっていないのですから。
 宇宙の果てしない歴史と比べたら、私たち人類が生きてきた時間は、本当に短いですよね。それなのに、戦争のためにこれまでたくさんの時間を費やしてきました。本当にもったいないなと思います。今は火星への移住計画も進んでいますね。では、火星に移住できたら、地球は壊れてしまってもいいのでしょうか。そんなことはありませんよね。それに、地球を破壊し尽くしてしまうような私たちだったら、火星や他の星で生きていくことなんて、できるわけがないのですから。地球規模で考えてみると、解決できる争いはたくさんあるはずです。だからこそ、私たちは宇宙について知ろうとするのです。

*宇宙の空間と時間のゆがみが波のように伝わっていく現象。アインシュタインによって予言され、2016年にアメリカのレーザー天文台「LIGO」の研究グループが世界で初めて観測に成功した。

『星は友だち!はじめよう星空観察』  著:永田美絵/NHK出版

 「星空観察がしたい!」初心者にぴったりの一冊。都会の明かりの中でも見られる星を手がかりにして、星座を探してみたり、遠い宇宙へと想いをはせたりしてみませんか?
 この本で紹介する星空観察の方法は、とっても簡単。双眼鏡一つあればOKなんです。写真やイラストを豊富に使い、季節ごとの星空をわかりやすく紹介しているので、今日からすぐに実践できます。国際宇宙ステーション(ISS)の追いかけ方、アウトドアでの星空観察の仕方も紹介。夏休みの自由研究のテーマにもなりそうですね。
 「星は一度覚えると、来年も5年後も50年後も同じ時期にめぐってきます」という永田先生。毎年同じ場所で出会える友だちって、すてきですよね!
『カリスマ解説員の楽しい星空入門』  著:永田美絵/筑摩書房

永田先生による、宇宙への愛に溢れた星空解説です。神話の解説や、星座の見つけ方だけでなく、先生ご自身の観察体験も豊富に盛り込まれています。わかりやすい文章で、中学生から大人まで幅広く楽しめますが、かに座の皆さんには特に読んでもらいたい一冊です(内容は読むまで秘密です)。プラネタリムを訪れたお客さんとの、心温まるやり取りもすてきですよ。最終章で紹介される、プラネタリウム解説員ならではの裏話も見逃せません。機器トラブルを乗り越えた「はくちょう使いの永田」のエピソードは、思わず笑い声をあげてしまうでしょう。
 日食や月食のしくみ、流れ星を見るコツなども紹介。楽しみながら宇宙についての基礎知識を得ることができます。

常設展示スペースでは、貴重な天文資料を公開しています。プラネタリウムは渋谷区文化総合センター大和田の12階にあります。

渋谷駅から徒歩5分で、星空&宇宙旅行♪

 永田先生がチーフ解説員を務めるコスモプラネタリウム渋谷は、なんと渋谷駅から徒歩5分の場所にあります。都会の真ん中で星空&宇宙旅行が楽しめるスポットです。子どもから大人まで、親子連れから仕事帰りのサラリーマンまで、いろいろな人が星空に癒しを求めて訪れます。
 今夜の星空を解説してくれたり、音楽と星空のシンフォニーが心を癒してくれたり、子ども向けの楽しい解説があったりと、上映番組の種類も盛りだくさん。ホームページでチェックしてみてくださいね。永田先生をはじめとした解説員の皆さんも個性豊かで、アットホームなプラネタリウムです。入口前の常設展示スペースでは、中国で前2世紀頃から使われていた天体の位置測定機器「渾天儀」や、ガリレオ・ガリレイが使った屈折望遠鏡(レプリカ)などの貴重な資料も展示しています。また、不定期ではありますが、「学び」や「好奇心」とプラネタリウムを組み合わせたイベントなども開催していますよ。

渋谷で26万5千個の美しい星空を楽しみましょう♪