• 特集②

2023年9月号特集② いざという時に役立つサバイバル術

 サバイバルとは、「困難な状況を乗り越えて生き残ること」という意味です。“生き残る”というと大げさに聞こえるかもしれませんが、日本では地震や台風、水害などが度々発生しており、いつ・誰が・どこで困難な状況に遭遇するかわかりません。いざという時にどんな行動をとればいいのかを知っておくことは、自分の命を守ることにつながります。2023年は関東大震災の発生(1923年9月1日)から100年。災害に対して危機意識を持ち、普段から“心の備え”をしておきましょう。

サバイバルの原則を知ろう ―「S・T・O・P」で生き延びる!

危機の時は「S・T・O・P」せよ

 災害などが起きて危機的な状況に陥った時、自分の身を守り生き延びるには、どんなことに気をつければいいのでしょうか?  その基本の行動指標を示したものが、「S・T・O・P」です。
 災害に限らず、事故や犯罪など様々な危機に直面した時にとるべき4つの行動の頭文字を並べたもので、普遍的なサバイバルの原則として世界的に知られています。
 “危機に見舞われたら、まず「S・T・O・P」せよ”と覚えておきましょう。
 例えば、突然、大地震が発生したら、多くの人はパニックに陥るでしょう。思考が停止し、まわりをよく確認しないまま反射的に走り出したり、家の外に飛び出したりするかもしれません。しかしこれは危険を伴う行為です。危機に直面した時は、一刻も早くその場を離れなければならない場合などを除き、動かずにじっとして安全を確保するのが基本です。
 次にすべきなのは、混乱した頭を落ち着かせること。「S(stop)」「T(think)」で体と心を落ち着かせたら、ようやく状況観察「O(observe)」が可能になります。周囲をよく観察し、目に見えるものだけではなく、音やにおいなどにも注意を払い、自分が置かれている状況の把握に努めます。今、何が起きていて、差し迫った危険は何か、それを回避するにはどうすればいいかなどを確認しましょう。
 こうした段階を経て初めて、自分が生き延びるための「P(plan)」が立てられ、そのプランに従って行動を開始することができるのです。

ライフラインが断たれたら……

 災害が発生すると、電気、水道、ガスの供給が止まってしまうことがあります。こうしたライフライン(lifeline)は、私たちの生活を支える生命線であり、命綱とも言えるもの。それが寸断されることは、生命存続の危機を意味します。
 もし大地震が発生してライフラインが断たれたら、何を優先すべきで、どんな工夫が必要になるのでしょうか?生き延びるために役立つ実践的なサバイバル術を紹介します。

サバイバル時の優先順位 ― 生命維持に欠かせない5つ

体温保持が重要
 下図は、人間が生きていくために最低限必要な5つの要素です。下に行くほど優先度は低くなります。意外かもしれませんが、食料の重要度は一番下。空気を除く4つについて、重要度順にみていきましょう。
カッコ内は、過酷な環境下で失われた場合、死に至るまでの目安の時間を示しています(個人差があります)。

 重要度レベルA 
◇体温保持(約3時間)
 空気以外で命をつなぐために重要なのは、体温を保つことです。体温が失われると夏でも3時間程度で凍死することがあり、場合によってはさらに短時間で死に至ることも。体温を奪う悪条件は、①水や汗で濡れる、②風に当たる、③体温より温度が低いものに触れる、の3つ。体温保持にはこれらを避けることが重要です。
①濡れない……人間の体は、通常は気温などの変化に関係なく、ほぼ一定の体温を保てるようになっています。しかし、濡れた服を着続けたり、大量の汗をかいたりして体の熱が奪われると、この機能に支障が生じます。その結果、低体温症を引き起こし、最悪の場合、凍死することもあります。
②風に当たらない……風に当たると、風速1mにつき1度の割合で体感気温が下がると言われます。
③体温より温度が低いものに触れない……冷たいコンクリートやフローリングの床など、体温より温度が低いものに長時間、接触するのは避けましょう。
 私たちが寒い時でも快適に過ごせるのは、雨風や雪を防ぐ家があり、衣服があり、暖房があるおかげ。もし、これらが失われたら――? 下のコラムで紹介した方法なども実践し、体温保持に努めましょう。

●防寒の知恵
レジャーシートなどがあれば、地面(または床)に敷いて冷気や湿気をシャットアウトしましょう。登山の世界では、「シートが1枚しかなければ被らずに地面に敷け」と言われているのだとか。

 重要度レベルB 
◇水(72時間)
 災害発生時のニュースで「72時間の壁」という言葉を聞いたことがありませんか? 人命救助は災害が起きてから72時間が勝負。これを過ぎると生存率が大幅に低下するためで、この根拠のひとつが、水です。人間が水なしで生きられるのは、約72時間までとされています。
 災害が起きて自宅で避難中に断水したとしましょう。1人あたり1日に必要な飲料水は2~3Lとされますが、入浴や洗濯、トイレなどで使用するにはこの数十倍の量が必要で、防災用にある程度の水を備蓄していてもあっという間に足りなくなってしまいます。節水に努めることが大切です。

●節水の知恵
ペットボトルのふたに画鋲などで穴をあけてふたをするとハンドシャワーに。水を節約できます。

 

 重要度レベルC 
◇火
 火は、お湯をわかしたり調理したりするのに使われるだけではなく、暖をとるためや明かりをとるためにも必要なもの。停電で真っ暗になった時、明かりがあるだけでほっとできます。

●簡単にランプを作る知恵
ツナ缶(オイル漬けのもの)でランプが作れます。缶に穴をあけ、そこに芯(綿のひもやティッシュをこより状にしたものなど)を差し込みます。芯に油がしみたら点火するだけ。使い終わったら食べられます。

 重要度レベルD 
◇食料(3週間)
 人間は、何も食べなくても約3週間は生きていられます。体に蓄えた脂肪などがエネルギーとして使われるからです。万が一、大災害に遭遇して何日も食べられない状況に追い込まれても、「3週間程度は大丈夫」と知っていれば、少しは気持ちに余裕がうまれるはず。とはいえ、災害時に消耗しやすい気力と体力を維持するために、食べることが重要なのは確か。避難所で生活しなければならない場合などを想定し、非常食の中には、日持ちのするおやつや好きなものも入れておきましょう。ストレスが多い避難生活の癒しになりますよ。