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2023年5月号特集① 知っておきたい未来の職業 ―新しい仕事・なくならない仕事

 「今ある仕事の多くは、将来なくなる可能性がある」――こんな話を聞いたことがありませんか? 人工知能(AI)がさらに進化する未来では、人間に代わってAIがいろいろな仕事をしてくれるようになるからです。すると近い将来、人間の仕事がなくなってしまうのでは?と不安に思う人がいるかもしれません。しかし、AIやロボットがどれだけ進化しても、人間にしかできない仕事はたくさんあります。時代の変化とともに新しく生まれる職業もあります。そんな職業の今と未来について紹介しましょう。

時代が変わると仕事も変わる ~ 新しい職業となくなる仕事

中高生がなりたい職業は?

 皆さんは将来なりたい職業、やってみたい仕事がありますか? その目標に向かってすでに歩み始めている人もいるでしょう。まずは、中学生や高校生がどんな職業に就きたいと考えているかを調べた調査結果を紹介します(ソニー生命保険「中高生が思い描く将来についての意識調査2021」)。

YouTuberが人気

 「YouTuberなどの動画投稿者」が男子では中学生・高校生ともにトップで、女子中学生でも2位。理由は、「楽しみながら収入を得られそう」「好きなことを仕事にできるのは最高」「見ている人を笑顔にさせたい」「柔軟な働き方ができる」などでした。女子中学生に注目すると、前回(2019年)の7位から一気に2位に上がっており、YouTuber人気の高さがうかがえます。
 YouTuberは2010年代に生まれた新しい職業で、日本のYouTuber人口(ある程度の頻度で動画を投稿する人)は、約2~3万人いるとみられています。有名になるとメディアに登場することもあり、華やかで自由度が高く、好きなことをして大金を稼いでいるイメージがあるようです。
 トップ10の中では、プロeスポーツプレイヤーやゲーム実況者、ボカロP(音声合成ソフト楽曲のクリエイター)なども十数年前にはなかった新しい職業です。

近い将来、仕事の半数はAIやロボットが代替

 新しく生まれる職業がある一方で、なくなると予想される職業もあります。
 「日本ではあと10~20年で、約49%の職業がAIやロボットに代替される可能性がある」――。2015年、こんなレポートが発表されました(野村総合研究所、オックスフォード大学マイケル・オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フレイ博士の共同研究「日本におけるコンピューター化と仕事の未来」)。
 601種類の職業について、AIやロボットで代替される確率を試算したもので、2015年から10~20年後の2025~2035年頃には、今、人間が行っている仕事の半分はこれらが代わりに行えるようになる、というのです。
 多くの業種ではすでにAIやロボットの導入が進んでいますが、これらが担う仕事は、少し前までは製造現場での単調な作業などに限られていました。それが近年は活躍の場がどんどん拡大。文書の翻訳や医療診断、自動車の運転、お客様の対応……と、これまでは不可能と思われていた複雑で緻密な業務も、学習することによってできるようになり、AIの進化のスピードはますます加速しています。
 

なくなる可能性が高い職業は?

 具体的に、どんな職業がAIやロボットに代替される可能性が高いのでしょうか?  前述の「日本におけるコンピューター化と仕事の未来」レポートでは、下表の職業がリストアップされました。
 筆頭に挙がったのは電車運転士です。時刻表通りに運行する電車の運転は、高い確率で自動化しやすいと試算されました。この他、一定のルールに従った仕事や、データ入力や計算、特別な知識やスキルがあまり必要とされない仕事なども自動化の可能性が高いという結果に。

AI、ロボットと協働する未来 ~ 働き方はどう変わる?

なくなる可能性が低い職業は?

 一方、なくなる可能性が低いとみられる職業は、下表の通りです。医師や医療関係の仕事の他、盲学校や養護学校などの特別支援学校の教員、*1産業カウンセラーなどが挙がりました。これらに共通するのは、人(患者さんや生徒、従業員など)とのコミュニケーションが重視される職業であるということです。
 例えば医師の場合。本人や家族の意見を聞きながら治療法を選択する、深刻な病状を説明する時は患者さんの様子をうかがいながら慎重に言葉を選ぶ、診察時は患者さんの顔色や話し方に変化がないか注意を払う――など、個々の患者さんに合わせた繊細な配慮が必要です。
 このように相手の気持ちを理解しながらコミュニケーションをとることはAIにはまだ難しく、こうしたAIが苦手な仕事は、これからも人の力が必要になるのです。

*1 職場で働く人たちが抱える問題(人間関係やストレスなど)を自ら解決できるように援助する。

AIが苦手なこと

 AIが苦手なことは他にもあります。今までにない新しいものを生み出すのは苦手です。芸術作品や音楽などがつくれるAIもありますが、どんな作品が人の心を動かすのか、人に感動を与えるのかといった感情に訴えかける部分を理解することは、AIにはできません。すでにあるものを学習して似たものはつくり出せますが、まったく新しいものを創出するのは、人間の方が得意です。

 このようにAIも完璧なわけではありません。AIが苦手な仕事はこれからも人が行い、AIは人間をサポートするパートナーという位置づけで、協力し合いながら働くことになるでしょう。

働き方はこう変わる

 AIが得意なことはAIに任せ、人間が得意なことは人間がする“協働”の社会になると、働き方はどのように変わるのでしょうか。

◦介護の現場では

 急速に高齢化が進む日本では、介護現場での人手不足が深刻な問題になっています。今後は、高齢者を支えたり抱き上げて移動させたり……といった力がいる仕事はロボットが担うようになるかもしれません。介護する人はその分、負担が減り、高齢者とふれあう時間を増やすことができます。

◦駅やバス乗り場などでは

 電車やバスの自動運転化により、運転士の仕事は減っていくでしょう。しかし、人はAIが苦手とするコミュニケーションが必要な仕事――乗客がスムーズに乗り降りできるようサポートしたり、乗客の細かいニーズに対応したり……といった仕事に専念できるようになります。

◦銀行では

 銀行に行かなくてもWeb上で入出金ができるようになりました。そのため、これからは顧客と直接やりとりをする窓口業務は減ることが予想されます。その代わりに銀行は、資産管理などについて詳しい金融のスペシャリストが常駐し、相談に乗ってくれる場所としての価値が高まっていくと考えられます。

◦オフィスでは(経理事務員の場合)

 「なくなる可能性が高い職業は?」で紹介したように、経理事務員の仕事は自動化される可能性が高いとされています。経理は会社のお金の動きを管理し記録する部署で、情報の入力が主な業務。入出金を管理し数字を打ち込むだけなら、自動化される可能性が高くなります。しかし、会社のお金の流れを把握している部署であるという強みを活かし、例えば「社内のお金に関する困りごとの相談に乗る」など新しい仕事をつくり会社に貢献すれば、仕事がなくなる可能性は低くなります。

 これからの時代は、与えられた仕事をただするだけではなく、人間にしかできない仕事を生み出していくことも必要になるでしょう。

これからの時代に注目の職業 ~ 未来の社会を見据えて

新しい仕事が続々誕生

◦ホワイトハッカー

 ホワイトハッカーは、コンピューターやネットワークに関する高い知識と技術を活かし、悪質なサイバー攻撃からシステムやWebサイトなどを守る仕事です。システムやプログラムを解析し改変するハッキングの知識と技術を悪用し、コンピューターへの不正アクセスやWebサイトの改ざんなどを行うのが「ブラックハッカー」で、こうした悪意ある攻撃から情報を保護します。
 個人や企業が保有する情報はデジタル化され、ブラックハッカーの手口は年々巧妙になっています。大切な情報を守るホワイトハッカーの仕事は、ますます重要になっていくでしょう。

◦ゲームストリーマー

 ストリーマーとはライブ形式で映像を配信する人を指し、YouTubeやライブ配信サービスを利用してゲーム実況をするのがゲームストリーマーです。配信する際に広告を流したり、イベントに参加したりする他、視聴者から「投げ銭」を受け取ることが収入につながります。

◦データサイエンティスト

 ビッグデータを活用する技術者のこと。SNSの普及などによって毎日大量のデジタルデータが生み出され続けています。データサイエンティストは、ビッグデータから企業などが抱える課題を解決するための有益な情報を集めて分析し、課題の解決を目指すプロフェッショナルです。

◦VRクリエイター

 VRはVirtual Realityの略で「仮想現実」という意味。コンピューターでつくり出した仮想の空間を現実のように体感させる技術のことです。VRクリエイターはその技術を用いてリアルな映像を生み出す仕事。VRは、ゲームやアトラクション、医療や不動産の分野でも活用されていて、今後さらに発展していくと見込まれています。

◦パーソナルデジタルキュレーター

 急速に進むデジタル化によって、インターネット上には様々なデータがあふれています。パーソナルデジタルキュレーターは、その人の個性や現状に合ったアプリケーションやソフトウェアなどを見つけてくれるデジタルツールのエキスパート。今後は、個人情報やプライバシーを守る方法を教えるような仕事になっていくと予想されています。

◦ドローン操縦士

 ドローンは映像や写真の空撮の他、様々な分野での応用が進んでいます。農業や測量、高い場所の点検などにもドローンが使われ、最近ではドローンによる配送サービスの実証実験も実施されました。実験を行った業者は「2025年度中の実用化を目指す」としており、ドローン操縦士は今後、需要が高まる仕事だと考えられます。