• 特集②

2021年9月号特集② 現代短歌がおもしろい!

 短歌とは、5・7・5・7・7の31音で作られる短い詩のこと。その歴史は古く、奈良時代の『万葉集』から始まって現代まで1300年以上続いています。年配の人が好むもの、という印象を持っているかもしれませんが、今、SNSを中心に若い世代でも静かなブームになっています。これらの短歌は、略語を使ったり、写真と組み合わせたり、自由な感性で作られたユニークな作品が多く、次世代を感じさせます。そんな現代短歌の世界に触れてみましょう!

現代までの短歌の流れ

和歌から短歌へ

 和歌とはもともと中国の漢詩に対して、5・7のリズムを基調に作られた日本の詩を意味する言葉でした。最古の歌集である『万葉集』には、31音で作る短歌と、回数の制限なく5・7のリズムを繰り返す長歌がありましたが、平安時代以降、短歌の形式だけが残ったことによって、和歌といえば短歌を指すようになりました。
 以来、平安時代の『古今和歌集』を手本とするような技巧を凝らした和歌が良いものとされていましたが、明治時代に外国文学の影響などから正岡子規らによる和歌革新運動が起こります。古典的な和歌を批判し、新しい和歌の在り方を求めて、与謝野鉄幹・晶子などにより、歌人の日常生活を反映した個性的な歌が作られるようになりました。これらは近代短歌と呼ばれ、現在では、この運動より以前のものを和歌、以降のものを短歌と呼ぶのが一般的です。
 現代の短歌もこの流れを受け継ぐものですが、戦後の1940年代後半、和歌にはなかった新しい技法が生み出された頃が近代短歌との区切りとされています。

現代短歌の広がり

 近代以降の短歌は、書き言葉である文語ではなく、話し言葉である口語を使った作品が増えてきていましたが、その流れを決定づけたのは1987年に刊行された俵万智の『サラダ記念日』です。カタカナ語を上手に取り入れ、身近なできごとをわかりやすく表現して、それまでの短歌のイメージを一変させたのです。短歌を知らない一般の人々にも広く読まれて一大ベストセラーとなり、短歌を作る人が急増しました。
 そしてインターネット環境が普及した近年では、ツイッターやインスタグラムなどのSNSを通じて短歌に親しむ若い世代が増えています。短文を投稿することに慣れた世代にとって、31音で表現する短歌は相性が良く、20〜30代の若い歌人が次々と誕生しました。短歌投稿サイトやアプリに加え、全国高校生短歌大会や大学対抗短歌バトルといった一堂に会して勝敗を競う大会も開催されており、10代向けの発表の場もあります。若い世代の歌は形式にとらわれない自由な作品が多く、短歌の世界はますます広がりを見せています。

短歌を読む

2000年以降に発表された短歌の中から、注目されている若手歌人のものや、話題となった歌集に収められているものを紹介します。現代短歌を読んで、その魅力に触れましょう!

「新鋭短歌シリーズ」
出版社・書肆侃侃房による若手歌人の歌集シリーズ。早逝した歌人・笹井宏之の歌集の刊行をきっかけに、「若い歌人の歌集を世に送り出したい」という思いで2013年にスタート、2021年6月までに54冊を刊行。彼の死を惜しむ声は多く、没後10年である2019年には笹井宏之賞が創設され、作品集『えーえんとくちから』が文庫化されています。

えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい
風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが

笹井 宏之『ひとさらい』2008

カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる
木下 龍也『つむじ風、ここにあります』2013

もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい
岡野 大嗣『サイレンと犀』2014

エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ
初谷 むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』2018

コンビニに生まれかわってしまってもクセ毛で俺と気づいてほしい
西村 曜『コンビニに生まれかわってしまっても』2018

▲『えーえんとくちから』ちくま文庫

▲『コンビニに生まれかわってしまっても』書肆侃侃房

ベストセラー歌集
いじめ、非正規雇用、恋──逆境の中での希望を詠んだ歌人・萩原慎一郎。急逝により遺作となった唯一の歌集は、個人歌集として異例のロングセラーに。2020年には文庫化、映画化され、小説版も刊行されています。
 
抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ
ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる
きみからのメールを待っているあいだ送信メール読み返したり

萩原 慎一郎『歌集 滑走路』2017

みそひともじ。短歌のこと。

▲『歌集 滑走路』角川文庫

コロナ禍での歌
2020年以降に刊行された歌集では、批判の集まった「夜の街」で働くホストや、最前線で働く医療従事者の詠んだ、コロナ禍の中で生まれた歌が話題になりました。

歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街
江川 冬依(歌舞伎町ホスト)『ホスト万葉集』2020

マスクでも感謝でもなくお金でもないただ普通の日常が欲し
犬養 楓(救命救急医)『前線』2021

▲『前線』書肆侃侃房

短歌を詠む

短歌の作り方に難しいルールはありませんが、より魅力的な作品を作るためのポイントは
いくつかあります。ポイントをふまえて、自分の短歌を詠んでみましょう!

リズムを楽しむ

 短歌の基本ルールは、5・7・5・7・7の型で作ることだけですが、これも絶対ではなく、紹介した短歌の中にも型通りではないものが多くあります。ですが、全体を通して読むと、どの歌も不思議と心地良いリズムになっていますよね。短歌ではリズムの良さを楽しむことが大切であり、5・7は日本特有の心地良いリズムなので、並べるだけで自然とリズムが整うのです。また、5・7の型と言葉の切れ目をずらすのは、句割れや句またがりという現代短歌で生み出された技法で、上手に使うと印象的な作品を作れますが、最初は少し難しいかもしれません。まずは型通りに作って、短歌のリズムに慣れましょう。

個性を活かす

 短歌はいつでも誰でも自由なテーマで詠めるからこそ、作者の個性が反映されていないと、平凡な印象になってしまいます。考えたことや感じたことを自分の言葉で詠みましょう。自分らしい短歌を作るためには、まず、他の人の短歌を読んで、自分が好きだと感じるテーマや心に残る言葉などを見つけておきます。次に、それらを参考にしながら、好きなことや身の回りで起きたできごとについて、短い言葉でメモしておきます。そして、メモした言葉をつなげて、リズムを整えると短歌になります。無理に難しい言葉を使う必要はありません。自分の気持ちにしっくりくる言葉をどんどん短歌にしていきましょう。

他者と共有する

 短歌作りは、アドバイスをしたりされたりすることで上達します。家族や友達に読んでもらって感想を聞くのもいいですが、それよりも投稿してみるのがおすすめです。紹介した『うたらば』のような投稿サイトもありますし、新聞や雑誌にも短歌投稿コーナーがあります。また、小〜大学生を対象とした全日本学生・ジュニア短歌大会なども開催されています。入選すればプロの目から自分の作品を評価してもらえますし、他の入選作品への評価も勉強になります。他者からの様々な意見を参考にすることで、表現方法を増やせます。自信作ができたら、思い切って投稿してみましょう。